低価格バードハウスの建設条件

低価格バードハウスの建設条件
ロギー・スマン (元マレーシア・サラワク森林局)


はじめに
 私がアナツバメを呼び込むバードハウスについて研究 し始めた理由の一つは、より革新的で現実的なバードハ ウス建設の契機を見出し、白ツバメの巣の販売という魅力的な産業に、農村部の人々や中産階級グループが参入するためのよりよい機会を提供したいと考えたからである。
 サラワクでは、裕福な人々や企業体などがバードハウスの建設に投資をしてきた。たとえば、3階建てや4階建てのバードハウスは、30 ~ 40 万RM (1,000 ~ 1,300万円台)の費用がかかっている。そこで、こうした高額バードハウスのオルタナティブとして、たとえば35,000RM (約117 万円) 程度の低価格で、周辺設備や電気機器なども含めた形での1 階建てバードハウスが建てられるのな ら、関心を持つ多くの人にとって建設可能な施設となるだろうと考えたのである。
 さらに言えば、低価格バードハウスは資本投資に対するリスクの軽減という意味も持つ。より戦略的に考えれば、数多くの小規模バードハウスを持つ方が、事態の急変や設備維持という観点から考えれば、専門的知識を持って投資するにあたって、持続的な対応能力を持ちうると思われる。昆虫が豊富でアナツバメの主要な飛翔ルート付近にバードハウスを建設しさえすれば、大規模バードハウスとの競合という点も大きな問題にはならない。つまり、大企業との競争という部分は考慮しなくてもよいのである。
 インドネシアやタイは、それぞれ約100年前、80年前にアナツバメの養殖を始めたという。半島マレーシアでは30数年前に始まったばかりで、大規模な産業としてようやく成長し始めたのは、アジア通貨危機直後の1997 ~98年の頃であった。当時、多くの産業が困難な局面に直面し、マレーシア中で企業が倒産していくなかで、バードハウスは代替ビジネスのひとつの選択肢であった。
 バードハウス産業成長のもうひとつの契機は、1997年にインドネシアの森林で大規模な火災が発生し、そこから逃れるようにアナツバメが大量にマレーシア側に移動したことである。サラワクにおいては、この時期にバードハウス産業が盛んになったと言われている。
 ツバメの巣の主要な買い手は、中国、香港、台湾、シンガポールなどである(Merikan 2007)。2011年の中頃にツバメの巣の価格暴落(未加工品1キロ当たり1,500RM まで落ち込んだ)が起こるまで、4,500 ~6,000RM で売買されていた白ツバメの巣は、香港や中国での末端価格は15,000 ~ 25,000RM にまでなっていた。香港や中国では、ツバメの巣は消費することがステータス・シンボルとなる商品とみなされたり、あるいは健康増進剤として捉えられたりしていた。また、薬品として、ビタミン・サプリメントとしても利用されてきたのである (Merikan 2007)。
 サラワクにおいては、非常に裕福な華人たちが食する以外、ツバメの巣が現地で消費されることはほとんどない。個人的なことを言えば、私自身もこれまで2回しかツバメの巣を口にしたことがない。1 度目は華人の友人に、2度目は藤田さんにごちそうになったわけである。クチンでは、ほんの小さな椀に入ったツバメの巣のスープが60RM していた。

バードハウス建設の条件
 天候等にもよるが、アナツバメは5:30 ~ 6:30 ころ、夜明けとともにバードハウス外へと飛翔しはじめる。飛翔範囲は半径およそ25km とされるが、空が暗くなる前の15:30 頃にはバードハウスに戻ってくる。アナツバメの飛翔能力は非常に高く機敏であり、空中で交尾することができる。また、エサとなる昆虫を口の中に塊状にして蓄え、それをバードハウスで待つ雛たちに与えることもできる。 ブディマン(Budiman 2010) によると、アナツバメには主要ルート、第2 ルート、逸脱ルートの3つの飛翔ルートがあるという。主要ルートではアナツバメが大きな群れを形成し、同じ地域を滑空する。アナツバメにとってもっとも重要な飛翔箇所としては、昆虫が数多く存在する場所、つまり、マングローブ林や広大な稲作地、休閑二次林、植林地、アブラヤシ・プランテーションなどの上空 ということになる。アナツバメは上空20 ~ 50m ほどの位置を飛行する。
 第2ルートでは、アナツバメは第1 ルートよりも小さな群れを形成して飛翔するが、そのルートは第1ルートからはそれほど遠くないという。3つ目の逸脱ルートは、滑空箇所が固定されているわけではない。ルートを逸脱するアナツバメの数はごくわずかだが、その逸脱の理由は主に2つある。第1に、空中の昆虫を追っているうちに集団からはぐれてしまうという場合で、第2に、タカや大型コウモリなどの天敵から襲われた際に身の安全から集団を離れるという場合である。こうした逸脱ルート上にバードハウスを建設するのは適切ではない。
 バードハウスを建設する場所は非常に重要である。サラワクにおいて最も成功しているバードハウスは、アサ・ジャヤ(Asa Jaya) からスブヤオ(Sebuyau) /リンガ(Lingga) /ムルドム(Meludom) にかけての地域、プサ(Pusa) /カボン(Kabong) からサリケイ(Sarikei)/シブ(Sibu)、マトゥ・ダロ(Matu Daro) にかけての地域など、主に沿岸地域に立地している。ムカ(Mukah)からビントゥル(Bintulu) にかけての沿岸地域、シミラジャウ(Similajau)からブクヌ(Bekenu)/ミリ(Miri)も同様に、ツバメハウスの立地場所としてはよい。
 ツバメハウスを建設する前には、その立地場所の状況をチェックしなければならない。具体的には、少なくと も1週間に5回以上、朝の6:30 ~ 9:00 ごろと、夕方の16:00 ~ 19:00 頃にかけて、交尾時の鳴き声を拡声器で流してみることで、ツバメの集まり具合を見る。そして、最低でも50羽以上のアナツバメがその音声に反応し反響定位を行ったり、拡声器上空付近を滑空・旋回したりして、地上から10 m 以下を飛び回っていることを確認しなければならない(Salekat 2010)。
 赤道はちょうど、インドネシア・西カリマンタンのポンティアナック(Pontianak) あたりを通過しており、サラワクは赤道よりやや北に位置していることになる。したがって、太陽光による熱の影響を避けるために、バードハウスは東西方向に水平に建設し、「モンキーハウス」1は北に入り口を向けて設置しなければならない。というのも、南側の方が北側よりも熱せられやすいからである。以下は、外的環境から受ける温度上昇をいかに軽減するかのガイドラインである。

 a. 屋根は建物の上甲板梁に接する形で設置してはならず、およそ50 cm 離して設置する。その場合、上甲板梁から三角屋根の頂上部までの距離は2 m ほどになる。このオープンスペースが外熱を遮断する効果を持っており、さらに、ここに熱放射用のベンチレーターを設置するのがよい。

 b. 薄いアルミニウムの屋根が、外部の表面熱を反射するので効果的である。ただし、内側から熱気を出すためのアルミニウム製エア・ダクトを同時に設置する必要がある。

 c. 「モンキーハウス」の屋根は、午後、西側からの太陽熱による温度上昇を軽減するために、約30 度に傾斜させる必要がある。

 d. 建物外の側溝は、幅30 cm、深さ45 cm のものを、バードハウスの外壁および基礎部分に接する形で設置し、そこに雨水をためる。側溝の末端部分には水道蛇口を設置して、月に1 回は側溝を掃除できるようにする。外壁に接する形で側溝を設置するのは、ひとつには「冷却システム」としての効果を持たせることであり、もうひとつは、ヤモリやアリ、ネズミなどの外敵がバードハウス内に侵入するのを防ぐという意図がある。

 e. ムリア(Mulia 2009) によると、バードハウスの入り口の大きさは、初期段階では40 cm x 100 cm としておき、巣が作られるようになったら、15 cm x 100 cm に狭くすべきであるという。それは、バードハウス内に太陽の光と熱が入るのを防ぐと同時に、フクロウやコウモリなどの外敵の侵入を妨げるためである。
 バードハウスの室内の気温は摂氏26 ~ 29 度、湿度75 ~ 95%に維持しなければならない。理想的な光量は3 ルックス程度である(Mulia 2009, 2010)。室内の飛翔エリアは3 m x 3 m 以上なければならない。というのも、飛び立ったばかりの若いアナツバメが飛び方を覚えるうえで危険でない程度の広さが必要だからである。通気口および湿度調整口としては、60 ~ 120 cm の長さのPVC パイプ(塩化ビニール管) を使って、全ての壁面の地上1.0 m の高さのところに1.0 ~ 1.5 m の間隔で横一列に取り付ける。そして、そこからさらに3 m 高い位置に、同じように列状に通気口を取り付ける。


 床と壁はコンクリートにしておくべきである。湿度を高めるためにバケツや壺などを置いて水をためておくとよい。床は週に2 回水洗いすべきである。梁や壁に取り付ける棚板はメランティ(Shorea spp. ) 材が最適である。大きさは2 cm x 15 cm とし、両側に2 本の浅い溝を並行して彫っておく。棚板どうしの距離は通常60 ~ 70 cm である。
 バードハウスへの人間の出入り口は二重ドアにしておかなければならない。また、北側のアナツバメ用の入り口に支障をきたさないよう、南側に作る必要がある。アナツバメの反響定位音を出せる高音域用メイン・スピーカーは60 度の傾斜で出入り口上部に設置し、通常は交尾時の鳴き声を流す。ひな鳥の各種さえずり音は「モンキーハウス」1の内部に設置したスピーカーから流し、飼育時の鳴き声を出すスピーカーは営巣エリア内に設置する。  アナツバメの鳴き声をMP3 形式で収録したCD は、初期段階でアナツバメを呼び寄せるためだけでなく、その個体数を増加させるためにも継続的に使用される。音声ファイルはUSB メモリーやカード式メモリーに保存してもよい。それらの鳴き声を大音量で流すために、音楽用アンプ一式が必要となる。朝の6:00 ~ 10:00 と、夕方の15:30 ~ 19:30 くらいにその音を流すのが理想的である。これらの電気機材は、クチンやシブ、ビントゥル、ミリなど、サラワクの主要都市で手に入れることができる。

図1: バードハウスの一例(平面図) 図2: バードハウスの一例(長辺面) 図3: バードハウスの一例(短辺面)

バードハウス建設のライセンス
 未加工の白ツバメの巣を地域内の市場に出す場合に、ライセンスを持っているかどうかは特に問題にならない。たとえば、プサやカボン等の地域では、地域外の産品も扱うシブやサリケイのバイヤー(頭家)が買い付けにやって来る。主要都市であれば、少量のツバメの巣であっても、サプライヤーが森林局発行のライセンスを持っているかどうかを聞くこともなく、バイヤーが購入してくれる。ビントゥルやシブなどの都市では、バイヤーの使い走りが、サプライヤーたちにツバメの巣の販売を強要するなどして、価格を操作したりしている。  都市部の商業地区や住宅地区等では、バードハウスのライセンスが発行されることはない。ライセンス発行の条件は以下の通りである。

 a.コメやゴム等の特定品目に特化していない農業用地であること。

 b.有効な土地登記簿があり、担保等にも入っていないこと。

 c.バードハウス建設用地は主要な都市から15km以上離れていること。小規模都市や市場町(たとえば、リンガやメルダム、パンダンなど) から5 km 以上離れていること。そして、ロングハウスや村落から1 km 以上離れていること。


 申請書は建設計画の内容を記したワーキングペーパーとともに、森林局に5 部提出しなければならない。それらは、サラワク企画庁(SPA)、土地測量局、保健局、 自然資源環境局に1部ずつ転送される。まず、SPA が閲覧をする。そして、森林局がその他の省庁で出されたレポートをまとめてSPA に結果を転送し、最終的にSPA が申請を認めるか否かの判断を下す。申請が認められれば、申請者に通知され、300RM を支払うことでライセンスを取得することができる。毎年のライセンス更新料も同じ金額である。
 SPA がどのようにして申請書の諾否を決めているのかは不明瞭である。審査員は、州副首相と2 名のVIP、および議長としての州首相から構成される。森林局は、現在サラワクに存在するバードハウスは5,000 件にのぼると推定している。ところが、現職の森林局職員の話では、これまでに受け付けた申請書は約3,000 通になるものの、そのうちライセンス発行が認められたのは、たった400件しかないという。ここで一つ言えることは、ある種の鉄拳的な力が、申請をことごとく却下してきたと言うことである。
 私が推奨するのは、高さ約4mの飼育エリアを持ち、地上から6 ~ 7 m の高さに「モンキーハウス」を付けた、低価格1 階建てのバードハウスの建設である。フロア・レイアウトとしては、6 m x 15 m 程度の長方形が望ましい。このようなバードハウスであれば、電気機器も含めて35,000RM 程度で建設可能だと思われる。ただ残念なことに、2011 年半ば以降、未加工白ツバメ巣の価格が最近では1 kg あたり1,500RM 程度に落ち込んでしまっている。この価格が3,000RM くらいまで回復すれば、バードハウスを建設する見込みが立つであろう。

(日本語訳:祖田 亮次)  
脚注
1:“Monkey house” is coined by Indonesians as “rumah munyit,” where the swiftlets are roving inside where a small entrance is placed. This is also called roving area.

参考文献
Budiman, A. et al.
 2010. Panduan bengkap wallet. Jakarta: Perpustakaan Nasional.
Merikan, H. S.
 2007. Abstract of the 2007 Malaysian swiftlet farming industry report.
 Penang: SMI Association of Penang.
Mulia, H.
 2009. Buku pinter budi daya bisnis walet. Jakarta: PT Agro Media Pustaka.
 2010. Cara jitu memikat walet. Jakarta: PT Agro Media Pustaka.
Salekat, H. N.
 2010. Membangun rumah walet hemat biaya. Jakarta: PT Agro Media Pustaka.

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