目的

石川「挨拶」用ポートレイト

2010年度から日本学術振興会科学研究費補助金
(基盤研究S 総合・新領域系複合新領域
課題番号22221010)を受けて
「東南アジア熱帯域におけるプランテーション型バイオマス社会の総合的研究」が開始されました。

 私たちは、このウェッブサイトを定期的にアップデートし、調査活動の進展をお伝えしていければと考えています。まずは、ご挨拶に代えて、私たちのプロジェクトの目的と概要をお知らせします。
 プランテーション開発が集中する熱帯域は、地球における水・熱循環の高い駆動力を持つ地域であり、最も高いバイオマスを有する地域でもあります。このような熱帯の生態系と地域社会の生存基盤の確保は、地球の全体環境と人類の生存基盤の確保を意味します。しかしながら、眼前で進行するプランテーションの拡大を無視した社会生態モデルを提示することは現実的でないと私たちは考えています。社会的にも生態的にも持続可能で、グローバル市場経済のみならず、ローカルなコミュニティにおいても、人や動植物がそれぞれの生存基盤を確保できるような「プランテーション型熱帯バイオマス社会」を学問分野の壁を越えて構想することを本プロジェクトの目的としています。
   現在、エネルギーならびに化学製品への変換技術の革新とともに、石油に替わる有機資源として、アブラヤシの植栽が東南アジア島嶼部で進んでいます。プランテーションが急速に拡大する熱帯雨林のフロンティアでは、工業用バイオマス量が増大する一方で、森林消失、生物多様性の変化、自然資源に依拠した自然経済(焼畑農耕・狩猟・漁労・森林産物採集)の脆弱化が顕著となっています。
   本研究では、熱帯の土地・森林開発と環境依存型経済の維持をトレードオフ関係とみなす前提を超えることにより、生存基盤の新たな確保の方法を模索しています。ついては、プランテーション・システムに組み込まれた熱帯環境における生存基盤のあり方を、ローカルからグローバルにいたる様々な分析スケールと文理融合的な分野横断型臨地調査から分析します。熱帯社会の「地域益」とグローバルなレベルでの「公/共益」の共存、さらには資本主義システムと在地の生態系保全の併存といった大きな問題への接近をボルネオの熱帯雨林から試みています。
   本科研の調査地域であるマレーシア、サラワク州北部の二つの流域社会(クムナ川流域とタタウ川流域)では、豊富なバイオマスが多様な生物・文化多様性を支えてきました。私たちは、現在、プランテーション・システムに包摂される流域ランドスケープにおける社会変化や人為撹乱の生態系への影響を人文・社会系と自然系の研究者が協働しながら調査しており、現時点では、大きく分けて四つの視点からフィールド調査の準備が進んでいます。
   生態系調査では、自然林とプランテーションからなる混合ランドスケープの生態現象の解明を目指しています。動物生態学、森林生態学、水文学などの観点から、第一次森林、第二次森林、焼畑耕地、アカシア植林地、アブラヤシ農園など複数の調査プロットを設定し、生物多様性の空間構造の理解を進めるとともに、森林・河川の物質循環の分析を試みます。水文学的調査では、海洋・大気・森林・河川間の水循環の理解を進めています。
   社会文化調査では、流域に形成された多民族社会における生業形態のポートフォリオの分析から地域経済再編の可能性を検討します。世帯別生業分析のために村落での全戸調査を行うとともに、商品作物の生産と流通を分析し、川上から川下にいたる社会文化的混合ランドスケープの中での諸ネットワークの動態を明らかにします。特にプランテーションに包摂されたコミュニティでの小農ベースのアブラヤシ植栽と商品化、村外労働、狩猟・漁労・森林産物収集など伝統的な自然経済の現状把握は、重要な調査トピックです。これらのプランテーションの優勢なランドスケープにおける商品作物生産、賃金労働、森林に依存した自然経済のあるべき形を検討し、その混合比率を検討することは、社会文化調査班の調査目的の一つです。
   ローカル・レベルの調査から構築したバイオマス社会モデルを現実化するためには、さらにナショナルとグローバル・レベルでの商品、資本、技術、制度のフローとストックを適正な関係に変えていく必要があります。国家市場レベルの分析では、生産地の生態系保全を目指した「認証制度」による新たな資源価値の創出のための制度設計、さらにグローバル・レベルでは、資本蓄積、労働移動、バイオマス資源化のための技術と制度の革新、さらにはREDD、REDD Plusをはじめとする二酸化炭素吸収源としての熱帯林保全の国際的システムとの関係を検討しています。
   私たちの科研調査活動は、文理融合を基本的なスタンスとしていますが、複数の学問的アプローチの単なる羅列や総和であってはならないと考えています。ついては、1)一つのトピックを異なる研究分野の研究者がフィールドで共有すること、2)そのトピックを異なる分析レベルから複眼的に検討することを基本的な共有事項としながら、現在、調査上の協業の方法を模索しているところです。ついては、「河川」「ツバメの巣」「イノシシ」「炭素」などに関するいくつかのサブ・プロジェクトが形をとりはじめており、参加する研究者の専門分野も、動物生態学、人文地理学、文化人類学、水文学、歴史学、経済学、森林学、華人研究、ライフサイクル・アセスメントなど多岐にわたるものとなっています。


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